植物細胞培養による有用物質の生産に関して、光の与える影響に着目し、光の照射を制御することによって、細胞の増殖と二次代謝産物の生産とを高水準に維持することを目的とした。反応系としては主にコ-ヒ-培養細胞によるカフェインの生産を取り上げ、この系での光の照射効果を詳細に検討し、その効果を効率的に発揮出来るようなフォトバイオリアクタ-を構築するとともに、その設計指針および制御手法を確立した。成果の主要な点を以下に列記する。 1.光照射がコ-ヒ-細胞の2次代謝産物生産に与える影響:(1)光照射によりカフェイン生産が著しく活性化される条件を見出し、回分培養ではこの活性化に少なくとも6日間の照射が必要なこと、光強度は0.11J/L/sというかなり弱い光で充分であること、一方、光照射が細胞増殖を強く抑制するため、最適光強度(0.70J/L/s)が存在すること等を明らかにした。(2)長期的な生産性の維持には、連続光より間欠的照射が有効であることを示した。(3)光活性化の波長依存性から、光レセプタ-としてフィトクロムの関与が示唆された。(4)代謝酵素活性をin vitroで測定した結果、光照射によって、少なくとも7ーメチルキサンチン以降の酵素活性(量)が増大していることも明らかとなった。 2.細胞あたりの光吸収速度の推算と増殖に対する光の影響の定式化:フォトバイオリアクタ-の設計指針を与えるために、(1)細胞懸濁相の透過光と反射光の比率を化学光量計により求める方法を新たに開発し、細胞の吸収断面積と散乱断面積の推算を行った。(2)さらに(1)の結果を用いて、光と増殖の関係を定式化した。 3フォトバイオリアクタ-の構築:(1)生成物分離吸着カラムを備えたフォトバイオリアクタ-の開発:疎水性吸着剤充填カラムの使用により、生成物阻害を除去する培養システムを提案し生産性の向上を示した。(2)固定化培養細胞を用いた気泡塔型フォトバイオリアクタ-の開発:生産開始までのラグタイムは懸濁培養に比べて長くなったが、高い生産性と細胞増殖が示された。
|