研究概要 |
本研究は,水稲栽培が湛水下水田土壌中のメタン発生にどのような影響を与えるか,稲わち・牛糞堆肥などの有機物資材投与がメタン発生にどのような影響を与えるか,土壌から発生する気泡メタンの炭素同位体比を測定して水田圃場中のメタンの発生経路を解析することを目的として,平成2年度から4年度にわたり,圃場試験及び室内分析を行ったものである.3年間の結果を総括すると次の如くである. 1)水稲を経由したメタン発生量は,田面からの放出量の1〜4倍であった。水田からのメタン発生量を概算すると,有機物無施用区に対して,稲わち区は約2倍,牛糞堆肥区は1.0〜1.4倍であって,メタン発生量は施用有機物によって著しく異なった。水田土壌中のメタン保持量は,湛水後急激に増大するが,湛水期間後半に減少に転じた。水管理として間断潅水処理を検討したが,本処理は常時湛水処理に比べて土壌Ehをより高めだが,メタン発生を著しく抑制するには至らなかった. 2)注射筒内湛水土壌インキュベーション実験で,メタン生成経路中(1)CH_3COOH→CH_4+CO_2の経路ではS^<13>C値の高いメタンが,(2)CO_2+4H_2A→CH_4+2H_2O+4Aの経路ではS^<13>C値の低いメタンが生成することを明らかにし,この成果に基づき,水田中の嫌気層から得られる気泡メタンの同位体比分析により両経路の比率を見積ることが可能になった。 3)全国の水田から得られた気泡メタンの濃度とS^<13>Cの分析値から,約40%のメタンが(1)の酢酸メチル基転移反応に由来し,残りが(2)の炭酸還元反応であることを示した.タイ国の酸性硫酸塩土壌の水田では,(1)の経路のメタン生成寄与率が42%であって,日本の水田のそれに近かった. 4)日本の水田圃場中のメタン発生経路の研究では,水稲栽培により禄地区に比べて(1)の酢酸メチル基転移反応が(2)の炭酸還元反応より活発になることを示した。
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