研究概要 |
高等動物の身体は,200種類以上の細胞から形成されているが、これらはたった1個の受精卵から分化・増殖したものである。また成熟細胞の多くは未分化の幹細胞の分化・増殖と正しい移動によって構造と機能が維持されている。組織の形成や維持にとって食品が重要な役割を果していることはいうまでもない。したがって細胞分化・増殖を制御する内因性及び外来性(食品由来など)因子を明らかにし,その作用機作を解明することは極めて重要である。本研究では,栄養生化学的見地から極めて重要な2つの細胞分化系(小腸上皮細胞(IECー6,IECー18細胞及び脂肪細胞(3T3ーL1,ob1771細胞)に着目し,分化・増殖に対する制御因子を明らかにし,これらの作用機構を分子レベルで解明することを目的として行ない,以下に要約する成果を得た。 小腸上皮細胞のモデルとしてIEC細胞の培養系を用い,ラット小腸中に吸収細胞への分化を誘導する分子量数百の因子が存在することを明らかにしたが,この分化誘導には血清中のタンパク質成分が補助因子となっていることを見出した。またIECー6細胞自身が,培養上清中に分泌しているタンパク質の中に,IEC細胞の増殖を著しく抑制する因子が存在することを見出した。 前駆脂肪細胞のモデルとして3T3ーL1培養細胞を用いた実験により,脂溶性ビタミン,カロテノイド等が分化を強く抑制すること,またその抑制機構は分化の初期に発現しているリポプロティンリパ-ゼmRNAの発現を抑制することと関係が深いことを明らかにした。また前駆脂肪細胞に特異的なタンパク性の増殖因子がラットの脂肪組織中にあること,そしてこの因子の脂肪組織中の存在量が摂食条件,特にエネルギ-摂取量の変化によって支配されることを明らかにし,この因子が脂肪細胞の数の増加の制御に関与している可能性が強いことを示した。
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