これまで貯蔵中における魚肉の歯ごたえの変化は、魚体の硬直・軟化と対応した現象と考えられてきた。しかし、冷蔵中における筋肉の破断強度は、ハマチ、マダイ、ヒラメ、ニジマスなど多くの魚類において即殺直後がもっとも高く、魚体が最大硬直を示す死後12〜24時間後に急速に低下した。これは筋肉の歯ごたえの強さと魚体の硬直とはまったく独立した現象であることを示している。さらにこの結果が実際の食感を反映しているかどうかを知るため、このような筋肉の物性測定と同時に官能検査を平行して行なった。その結果、官能評価と破断強度とはよく相関し、破断強度測定によって歯ごたえの変化を定量化できることが明らかとなった。さらに、冷蔵中における筋肉の軟化機構を明らかにするため、透過型電子顕微鏡観察を行なったところ、筋線維間に存在する結合組織の主成分であるコラーゲン線維の崩壊が認められ、冷蔵中における軟化の主な原因は、結合組織中のコラーゲンの脆弱化によるものであることが強く示唆された。貯蔵中における魚肉の呈味の変化を調べるために呈味成分である遊離アミノ酸とヌクレオチドの含量を測定した。その結果、遊離アミノ酸には目立った変化は認められなかったが、貯蔵初期(約10時間目まで)にATPが急減し、IMPが急増することがわかった。これらの事実から、結合組織中のコラーゲンの脆弱化によって即殺後魚肉の歯ごたえは急速に低下するものの、呈味成分であるIMPが増加することによって刺身は風味を増すものと推測された。更に、加熱肉については、ハマチ筋肉を3週間にわたって氷蔵したにもかかわらず、加熱後に調製した抽出液の風味には大きな変化が見いだされなかったことから、成分の一部(たとえばATP)が加熱によって呈味成分(IMP)へと変化するものと考えられた。
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