1.脂質過酸化反応は、食品学、栄養学における重要テ-マであるが、現在のところ、過酸化を定量的に評価する方法は存在しない。そこで、従来から脂質過酸化の指標とされながら、特異的定量法が存在しなかった、マロンジアルデヒド(MDA)を、化学誘導と高速液体クロマトグラフを用いて定量する新しい方法を確立した。 2.大豆油の酸化において、上記の方法で測定されるMDAとTBAー反応性物質との比較を行った。その結果、高温(170℃)での酸化においては、MDAとTBAー反応性物質の生成は似た挙動を示し、酸化のもう一つの指標と考えられるビタミンEの減少とも、よく相関した。一方、37℃でラジカル開始剤を用いた酸化反応では、MDAとTBAー反応性物質の量は対応せず、MDAは徐々に増加したが、後者は急増した後、一定値を保持した。ビタミンEはMDAと似た挙動を示したことから、生体内のように37℃程度の低温で起こる酸化反応については、TBAー反応性物質より、MDAの方がより正確な指標となることが示唆された。 3.ナタネ油につても同様の実験から、上と同様の結果を得た。過酸化の指標として、化学発光や酸素消費量も測定し、どれが過酸化の指標として、適当であるのか、体系的に検討している。 4.ラジカル反応による広汎な脂質過酸化反応は、細胞を破壊する。最も古くから研究されているのが四塩化炭素による肝障害である。最近、我々は、肝部分切除後に起こる肝再生は、肝蔵のα_1ー受容体が関与するシグナルネットワ-クにより調節されることを明らかにしてきた。四塩化炭素による障害に続いて起こる生体側の防御機構としての肝再生は、肝部分切除後に起こるものと同様、α_1ー受容体を介することを証明した。ラジカル反応により、生体に障害を与える環境汚染物質のいくつかについて、その作用機構の検討を開始した。
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