研究概要 |
前年度に引き継き,ニジマスの甘露煮とコイの鯉こくの調理におけるテクスチャ-の変化とその原因を追求することを目的として研究をした。実験は,主として電気泳動,組織の観察行なった。 1.ニジマスの甘露煮における素焼きの効果 (1)養殖ニジマスの甘露煮における素焼き処理により,生肉の場合よりも肉が硬くなることが示された。しかし,肉のほぐれやすさは,ふるいを用いた測定によって,ほぐれやすいことが示された。さらに,肉をホモジナイズ後,筋繊維の長さを顕微鏡下で観察してみると,筋繊維は切れにくいことが示された。 (2)素焼き処理したニジマスでは,水煮後,調味料の入った液中で加熱すると調味料の浸透が対照と比較し良くなることが示された。これは煮汁に蛍光色素エオシンYを0.05%溶解させ,そのなかで加熱し,凍結切片にして蛍光顕微鏡で観察,写真撮影することによって明らかにされた。 (3)加熱中の素焼き処理肉の組織を顕微鏡で観察すると,対照と比べて筋繊維間にタンパン質の線粒がほとんど見られず,素焼きによって加熱変性したタンパク質は,水中加熱によって溶出しないことがわかった。また,これが素焼き処理肉がほぐれやすいことと関連があるものと考えられた。 2.鯉こくにおける加熱時間と調味料の影響 (1)鯉こくの調理中にうろこ,皮,骨,肉から溶出するコラ-ゲンが増加していることが測定によって示された。煮汁中のタンパク質を電気泳動によってみると,加熱時間が長くなるにつれて,また清酒を添加したほうがコラ-ゲンの溶出がおおく,かつ,コラ-ゲンが分解していることが示された。このことは,煮汁の粘度の測定によって裏付けられた。 (2)鯉こくは,骨とうろこをやわらかくするのに10時間を要した。これを加圧加熱によって行なうと1時間で骨とうろこが食べられるようになった。しかし,肉がやわらかくなりすぎて官能検査では好まれなかった。 (3)加熱中のコイ肉の組織を観察すると,対照では1時間,4時間後には筋繊維の間にタンパク質の顆粒が充満し,7時間,10時間加熱でこれらの顆粒は減少した。清酒を添加すると,筋繊維間のタンパク質顆粒は少なく,しかも清酒添加液中のタンパク質の溶出が多かったことと考え合わせてみると,魚肉タンパク質が清酒により凝集して,肉の外に水溶性成分が押し出されているのではないかと,考えられた。
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