本研究では高等植物の細胞増殖の制御機構を明らかにするために、リン酸飢餓処理によるニチニチソウ同調培養系、及びオ-キシン飢餓、再添加によるニチニチソウの増殖誘導系を用い解析を行なった。この結果本年度は以下に挙げる成果を得た。1.リン酸飢餓処理によって誘導される同調培養系においては、(1)細胞周期のS期に特異的に発現するcDNAをすでに数種類クロ-ニングしているが、このうちcyc07と名づけた遺伝子は、培地中の種々の栄養系を除去、あるいは量的に制限することによって飢餓処理を行い、細胞増殖を停止させると、極めて低いレベルに発現が抑えられる。(2)このcyc07はインタクトなニチニチソウ幼植物体では分裂の盛んな根端に特異的に発現が認められた。(3)cyc07に相同な酵母(S.cerevisiae)遺伝子を、PCR法によりクロ-ニングすることができた。(4)DNA複製に関与することが知られているPCNA遺伝子のニチニチソウにおけるcDNAを単離した。また、この単離したcDNAをプロ-ブとすることにより、細胞周期中の発現を調べたところ、S期に特異的に発現が認められた。2.オ-キシンに応答する増殖誘導系においては、(1)オ-キシン添加に伴い発現する転写産物を、in vitro translationの翻訳産物の電気泳動により検出することができた。(2)オ-キシン添加により誘導を受ける遺伝子のcDNAと数種類単離することができた。 以上挙げたように、細胞周期の進行やその制御、及びこれらとオ-キシンとの関係において重要な機能を持つと考えられる遺伝子を複数個単離することができた。特にcyc07に関しては、高等植物のみならず広い範囲の生物一般の細胞増殖に関与するのではないかと期待される。今後、これらの遺伝子を解析していくことにより、細胞周期の分子レベルでの理解に寄与するものであると考えられる。
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