本研究では、高等植物における細胞周期の制御機構を理解する試みとして、リン酸飢餓処理によるニチニチソウ同調培養系、およびオ-キシン飢餓、再添加によって誘導する同調培養系を用い解析を行なった。この結果、平成2年度、3年度において、以下の知見を得た。1.リン酸飢餓処理によるニチニチソウ同調培養系においては、(1)S期特異的遺伝子として単離したcyc07は、増殖の盛んな細胞においてのみ発現する。(2)cyc07に相同な遺伝子が、多くの種の高等植物、および酵母に存在する。(3)cyc07プロモ-タ-は、増殖の盛んな組織において特異的に発現を指令する。(4)出芽酵母においては、cyc07相同遺伝子は細胞増殖に必須の機能を果たしている。(5)cyc07は、増殖中の細胞に特異的に存在する非ヒストン核タンパク質をコ-ドしている。(4)動物細胞において細胞周期の進行に重要な機能を持っているとされるPCNAおよびサイクリンをニチニチソウからクロ-ニングし、塩基配列およびその細胞周期依存的な発現パタ-ンを明らかにした。2.オ-キシン飢餓、再添加によって誘導する同調培養系においては、(1)オ-キシンの添加によって発現が誘導される遺伝子を、無細胞翻訳系の産物として同定した。(2)オ-キシンの刺激により、発現が誘導される遺伝子をcDNAとしてクロ-ニングした。(3)これらcDNAの塩基配列を決定し、その構造を明らかにしたところ、ヒ-トショックプロティン90やparと相同な構造を有することが明らかになった。 今回の研究によって得られたこれらの結果は、いずれも高等植物の細胞周期の研究に新しい知見を与えるものであり、本研究を継続することによって、更に興味深い新知見が得られると期待できる。
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