酵母が種々の栄養飢餓条件下に活発な自食作用を示すことを見い出した。この系は自己の構成成分の制御された分解系を分子レベルで理解する上で極めて有用なモデル系である。本研究によって得られた主な成果は以下の通りである。(1)瞬間凍結・凍結置換法を用いた電顕観察により栄養飢餓条件下の細胞内膜系の微細形態を解析し酵母に於ける自食作用のモデルを提出した。(2)液胞の欠損株を栄養飢餓条件下におくと細胞質中に細胞質を取り囲んだ二重膜構造が多数蓄積することから、これらが自食胞に相当することを示した。(3)cAMPシグナル伝達に関与する変異株の解析から、自食作用の誘導には細胞内cAMPが負の調節因子として働いていることが明かとなった。(4)液胞膜H^+ーATPaseの遺伝子破壊株及びバフィロマイシンを用いた解析により、酵母細胞に於ける自食作用には、液胞内酸性化が必須でないことが明らかとなった。(5)栄養飢餓条件下に液胞内に一重膜構造ーオ-トファジックボディを蓄積しないことを指標として自食作用に欠損を有する変異株を単離することに成功した。多数の遺伝子が関与すると思われる自食作用に遺伝学的アプロ-チを導入する道が招かれた。(6)栄養飢餓条件下のタンパク質分解に於いて液胞内プロテイナ-ゼBが最も重要な役割を担っていることが明らかとなった。prbl遺伝子破壊株を作製し、この株が種々の栄養飢餓条件下に液胞内にオ-トファジックボディを蓄積することを示した。(7)窒素源の飢餓条件下の細胞周期の進行には、自食作用による多量のタンパク質分解が不可欠であり、自食作用が誘導出来ない株や、生理的条件では細胞はG_1期停止が出来ず、その生存率が急激に低下することが明らかとなった。 以上の成果は4報の論文として国際欧文誌に投稿中及びその準備中であり、この成果、の植物細胞への応用は興味薄薄い今後の課題である。
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