ホヤにおける自家不和合性は、アロ認識にもとづく配偶子間相互作用の修飾・変調と考えることができる。卵黄膜除去卵は自家受精するので、アロ認識の結果修飾されるのは主に、ア)精子が卵黄膜に結合してからイ)先体反応の誘起を経て、ウ)卵黄膜を貫通するまでであると予想できる。すでにカタユウレイボヤでは、自家ではア)が起こらないことが知られている。本研究では、自家不和合性でしかも受精研究の優れた材料であるユウレイボヤ類およびマボヤを用い、(1)アロ認識の分子機構とその形成(2)ア)〜ウ)の分子機構とを解析し、概略次の様な知見を得た。(1)卵巣より得た一次卵母細胞を海水中で培養すると、テスト細胞の分離、卵核胞崩壊、受精能獲得、自家不和合性獲得がこの順で起る。自家不和合性獲得までに要する時間は、カタユウレイボヤでは1〜3時間、マボヤでは10〜12時間であった。自家不和合性の獲得には瀘胞細胞(分離したものでも良い)の共存が必須である。(2)カタユウレイボヤでは、瀘胞細胞由来、タンニン酸好染性の薄い層が、卵黄膜最外層に沈着することと自家不和合性の獲得とが良く対応した。この層は、ライシンであるキモトリプシン様酵素で消化される層でもある。一方、精子を異個体由来の瀘胞細胞培養液で処理すると自家受精するようにが、用いた瀘胞細胞と同じ個体由来の卵に対する受精能に変化しなかった。これらの結果は、自家不和合性と先体反応とが密接に関係していることを示唆している。3)カタユウレイボヤの卵黄膜ライシンはキモトリプシン様酵素であることを見出し、この酵素を精製し、酵素学的性質を調べた。また精子卵融合には、Zn^<2+>依存性の金属プロテア-ゼが関与することを見出した。4)マボヤでは卵黄膜糖タンパク質のAsnー結合型糖鎖と精子αーLーフコシダ-ゼが結合に関与していることを明らかにした。
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