動物胚の初期発生過程における遺伝子発現制御機構を明らかにするため、ウニ胚アリ-ルスルファタ-ゼ(Ars)遺伝子をモデルにして、その転写制御機構を研究し、本年度はArs遺伝子の発生時期特異的転写開始制御に関シスエレメントに結合するトランス因子の検出を行った。本年度の成果は下記の通りである。 1.ウニ胚Ars遺伝子の発生時期特異的転写制御に関わるエンハンサ-領域とサイレンサ-領域に結合する核蛋白質多数をゲルシフト法で検出し、その結合する塩基配列をフットプリント法で明らかにした。各領域にはそれぞれ1種以上の蛋白質が結合する。これらのDNA結合蛋白質の出現パタ-ンは発生時期に伴って変動するので、Ars遺伝子転写制御のトランス因子として働くものと考えられる。 2.サイレンサ-領域はシトシンとチミンに富むCT領域であること、この領域中の(CT)_<11>配列は三重らせんDNA構造であることを明らかにし、この特異なDNA構造が蛋白質結合の認識部位として働く可能性を指摘した。事実、サイレンサ-領域には数種の蛋白質が塩基配列特異的に結合する。特に、サイレンサ-領域内のGストリング(Gが11個連続する配列)に特異的に結合する一群の核蛋白質をサウスウエスタン法で検出した。これらの蛋白質は中性pHでDEAEセルロ-スに結合するが、孵化期を境にDEAE結合能を失うので、これらの蛋白質に修飾等の質的変化が生じるのではないかと考えている。Gストリング結合蛋白質のこのような変化がArs遺伝子の発生時期特異的な転写制御とどのように関連しているのか現在研究中である。
|