本年度は主にワモンゴキブリの運動中枢神経系の活動を制御する脳に細胞体をもち軸索を胸部神経節に送っている下降性ニュ-ロンの応答と形態の概要を明かにした。昆虫の歩行時、複眼、単眼、触角、尾葉からの入力が脳で統合されこれらの情報が下降性ニュ-ロンを通じて胸部の運動中枢に伝えられる。単眼の刺激に応答するニュ-ロンとしては、単眼の光量減少(陰影刺激)時にインパルスを一過的に又は持続的に発火する細胞が数種見られ、神経の細胞体と同側の単眼刺激に応ずる細胞、反対側の刺激に応ずる細胞、両側の単眼刺激に応ずる細胞があった。これらのニュ-ロンは入力部位である樹状突起を単眼神経内、posterior slope、後大脳に広げ、軸索は胸部神経節および腹部神経節に分枝を伸ばしていた。後大脳には触角中枢があり、触角の機械刺激に応ずる細胞もあった。これらのニュ-ロンは腹部の巨大介在ニュ-ロンを通じて尾葉の風刺激に持続的に応答し、単眼と尾葉刺激を重ねると応答が加算されるので、形態と考え合わせるとゴキブリの運動開始決定あるいは運動準備姿勢制御に重要な役割を果たしていると考えられた。以上のニュ-ロンは複眼刺激には顕著な応答を示さないが、尾葉、単眼刺激に加え複眼刺激に応ずる細胞がいくつか見いだされた。これらの細胞には上述の細胞とは逆に光量増加時にインパルス頻度を増加させる細胞があった。このことは光感度の低い複眼がアクティブになるような比較的明るい環境下と感度と高い単眼のみがアクティブになるような薄暗い薄暮下では各感覚器官からの入力の統合様式等が異なり、それが行動パタ-ンや行動開始の閾値等の違いとなり、これらのニュ-ロンがその制御機構に関与していることが示唆された。以上の下降性ニュ-ロンの同定と平行して胸部介在ニュ-ロンの同定も行っているが、まとめた結果は次年度報告したい。
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