本年度は下降性介在ニューロンと胸部介在ニューロンの応答特性、各ニューロンの相互作用を生理学的に調べ、また脳ニューロンの神経伝達候補物質を免疫組織化学的に検索した。多数の下降性介在ニューロンから記録をとり、少なくとも8種の特徴のあるニューロンが同定できた。大部分のニューロンは尾葉等への風刺激によって興奮した。その半数のものでは片側性または両側性の単眼照射によって尾葉刺激による興奮が抑制された。また複眼照射によって興奮が抑制されたり、あるいは動く点光刺激によって興奮した。残りの半数のニューロンは尾葉や触角の刺激には応答するものの、単眼や複眼刺激にはわずかに応答するか、ほとんど応答しなかった。これまで報告されているいくつかの胸部介在ニューロンには単眼照射のによってその活動が抑制されたものがあった。また下降性ニューロンと胸部ニューロンの同時記録によって、ある下降性ニューロンから直接シナップスを受ける胸部介在ニューロンが同定でき、両ニューロン間の相互作用が解析できた。small multimodal neuronと名付けた脳局在性ニューロンはGABA作動性であることがこれまで薬理学的に示唆されていたが、今回のGABA抗体を用いた免疫組織化学においても示唆された。これまで得られた中枢神経系各部の多種感覚性ニューロンの応答特性を外観してみると、いろいろな感覚器からの情報のおおよその統合様式の特徴を伺い知ることができる。その第1点は尾葉や触角等の機械感覚器からの情報はほとんどのニューロンを活性化させる方向に作用していること、第2点は単眼からの入力は逆に不活性化する方向に作用していることである。これらを合目的に考えると、尾葉からの風情報は、虫の緊張状態を高め、次の逃避行動に備えさせるか、逆避歩行運動を開始させ、そして単眼からの光情報は単眼から抑制がない方向(暗い方向)に定位させるか、あるいは歩行のコースをコントロールしているのではないかと考察された。
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