本研究は両生類初期発生における細胞間相互作用の全体像を発生工学的手法を利用して解明することを目的としてきた。このため卵母細胞へのアンチセンスDNAの注入と注入卵の成熟・移植・人工受精の手法の開発を行いその実用化に成功した。この方法による細胞接着分子の消去結果の検定には実験の例数をあげる必要があり現在引き続き検討を続けている。この手法で消去する遺伝子を分離する試みも成功を収め、現在全く新しいカエル・カドヘリンの _CDNAの塩基配列をほぼ全長決定した他、さらに二種類の制限酵素地図が全く新しいカドヘリンのクロ-ンの塩基配列決定を急いでいる。また同時に初期胚のカルシュウム依存性の細胞接着を阻害する抗体M4Bの研究を行いこの抗原が細胞接着においてカドヘリンと細胞表面膜上で緊密に会合していることを明らかにした。細胞膜上でカドヘリンと会合している抗原は私たちが初めて見いだしたものである。抗原は糖であり脊椎動物の初期細胞接着に糖鎖が機能を果たしておりそれがカドヘリンと相互作用していることを初めて示すことが出来た。またこの糖鎖が糖脂質にも糖蛋白と同様に存在していることから糖脂質の構造決定を行い、現在ほぼその抗原構造を決定したところである。初期発生のカルシュウム依存性細胞間相互作用に役割を果たしている糖鎖の存在の発見およびその構造決定は両生類の細胞間相互作用の全体像を解明する上で極めて大きな貢献であると考えられる。さらに細胞基質間の相互作用を阻害する抗体数種が卵母細胞から初期胚の糖脂質と反応することも判明し初期胚での糖脂質の細胞間相互作用および細胞基質間作用への関与という新しい研究分野を開拓することが出来た。今後本研究を通じて明らかにされた糖脂質を含む新しい諸分子の発現がどの様に制御されているのかをこの研究で開発した発生工学的手法と分子生物学的手法を駆使して解明するつもりである。
|