研究概要 |
底生有孔虫類の殻形態が持つ生物学的意味を明らかにすることを目的として,個々の環境要素を独立に制御した飼育実験を行なった。平成2年度は次のような研究を行なった。 (1)<粗飼育>___ー‥‥有孔虫を実験動物として研究室内に常に確保するために,日本沿海(静岡・宮城・福井の岩礁地,浜名湖,下田湾,伊豆諸島近海)より多数の底質試料を採集した。実験室内では温度・塩分濃度・光のみを制御して有孔虫を底質とともに飼育した。 (2)<クロ-ン飼育>___ー‥‥粗飼育している有孔虫の中から,有性生殖によって生れた個体を取出し,シャ-レ内で無性生殖のみによる増殖を試みた。Rosalina globularisは無性生殖を繰り返し,クロ-ン化に成功した。しかし,Glabratella opercularis,Trochammina hadaiの2種は,有性生殖と無性生殖とを交互に繰り返す生活環を持つため,クロ-ンは作れなかった。 (3)<精密制御飼育>___ー‥‥粗飼育している有孔虫を一匹ずつ拾い出して特製水槽に入れ,飼育環境をさまざまに変えながら飼育した。この飼育実験で成長し,新しく形成された殻は走査型電子顕微鏡を用いて詳細に観察した。今年度は,砂質殻有孔虫Trochammina hadaiを材料として,温度・塩分濃度・溶存酸素量の3つの環境要素をそれぞれ変えた飼育実験を行なった。その結果,Trochamminaは,高温・付溶存酸素量のもとでは矮小(dwarf)な殻を作った。これは,高温・付溶存酸素量の海況になる夏場に矮小な殻を作るという野外における観察事実と整合的である。なお,塩分濃度の濃淡は,殻形態には影響せず,成長速度に関係していた。 平成3年度は,石灰質殻有孔虫の精密飼育実験を行い,底生有孔虫の殻の形質と環境との相関を更に積極的に検討する。
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