研究概要 |
本研究は飼育実験を通じて底生有孔虫の殻形態に生物学的な意味づけをすることを目的としている。実験は、温度・塩分濃度・光・溶存酸素量などの環境要素を制御した条件下で有孔虫を飼育し、殻を作らせることによって行った。 (1)飼育系の整備……有孔虫を実験動物として確保するために、日本沿海より多数の底質を採集した。飼育は3つの段階にわけて行った。自然個体群を底質とともに飼育する粗放飼育、一種類のみを選別して飼育する粗飼育、無性生殖によって生まれた遺伝的に同一の個体群を飼育するクローン飼育である。これとは別に餌とする藻類の継代飼育も行った。 (2)精密飼育実験……すでに生活史が明らかになっている浅海生有孔虫、Trochammina hadai,Ammonia beccarii、Glabratella opercularisを温度・塩分濃度・溶存酸素量を制御して飼育した。T.hadai,A.beccariiは粗飼育個体群を、G.opercularisの実験にはクローン個体群をそれぞれ用いた。これら三種類とも、温度・塩分濃度を変化させると、成長速度が大きく変化したが、殻形態は変らなかった。しかし、溶存酸素量を変化させると、T.hadai,A.beccariiの殻に形態変異が現われた。低溶存酸素環境では、殻縁部が平滑になり、高溶存酸素環境ではふくらんだ殻を作った。A.beccariiは殻の壁孔の大きさも変化し、低溶存酸素環境で大きな壁孔を持った殻を作った。溶存酸素量を有孔虫の殻形態に影響を与えることが明らかである。また、相模湾から採集した、深海生有孔虫については、餌濃度と水圧を制御した実験を行った。深海生有孔虫は、餌濃度に敏感で、一定量以上の餌を与えると成長した。また、加圧した環境下でより早く成長した。 (3)交配実験……Glabratella opecularisの細胞質融合実験を行った。いくつかのF_1個体を得、現在形態解析を行っている。
|