本研究は、ヒトのゲノム中には存在するがヒト以外の生物種のゲノム中には存在しない、すなわち「ヒトに特有な遺伝子領域」をヒト・ゲノムより探り出し、これらの遺伝子領域に関して染色体上の位置の同定も含めた詳細な構造分析をおこなうものである。研究計画の初年度にあたる本年度は、当研究目的達成のために独自に開発したGenome Subtraction法をもちいて「ヒトに特有な遺伝子領域」を数多くクロ-ニングすることを第一の目標とした。この結果、Genome Subtraction法による一次スクリ-ニングにて50以上のクロ-ンを得ることができた。これらのクロ-ンの内から更にSouthern Hybridization法によるポジ/ネガ・スクリ-ニング(二次スクリ-ニング)による選別をおこない、有力な数個のクロ-ンを得ることができた。このうちHS5と名づけたクロ-ンの詳細な解析をおこなった結果、このDNA領域は性(男女)・集団(いわゆる三大人種)を問わずヒト・ゲノム中には普遍的に存在するのに対して、チンパンジ-・オランウ-タン・テナガザル(以上類人猿)・旧世界猿・新世界猿・原猿では、いずれのゲノム中にもHS5に相当するDNA領域を検出することは出来なかった。この領域の一次構造上の特徴を探るべくコンピュ-タによる探索をおこなったが、転移性遺伝要素の可能性を示唆する構造上の特徴はなく、また現在までに登録されているDNAデ-タ・ベ-スのDNA塩基配列との相同性はみられなかった。HS5の塩基配列を基に合成したオリゴヌクレオチドをプライマ-をし、1塩基置換でも検出可能な精度をもつPCRーSSCP法にてヒト集団中の多型性を検討したが変異型はこれまでのところ1例も見いだされておらず、進化的に保存されてきた領域である可能性が示唆された。さらに、約2000年前の弥生時代人骨より抽出したDNAにも同じ(塩基配列)の領域を検出することができている。
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