本研究の目的は、宿主ベクタ-系を用いた遺伝子工学的物質生産において、高い生産性を付与する変異を持つ高発現酵母宿主を構築するための基礎的知的を得る事である。この目的のため、その生産量がコロニ-レベルで視覚的に検知でき、しかも活性測定が容易な酵母の酸性ホスファタ-ゼ(APase)をコ-ドする<PHO5>___ー遺伝子の構造部に、酵母のヒスチジン合成系遺伝子<HIS5>___ーのプロモ-タ-部(<HIS5p>___ー)を連結して、<HIS5p>___ー::<PHO5>___ー融合遺伝子を構築し、宿主酵母の<ura3>___ー遺伝子座に組み込んだ。平成2年度では、これよりAPase活性が上昇した変異株(<bel>___ー変異と命名)約300株分離し、これらの変異株間の相補性試験離により4つの相補群(<BEL1>___ー、<BEL2>___ー、<BEL3>___ー、<BEL4>___ー)を同定した。<bel>___ー変異はいずれも単一の核性変異で、<bel>___ー変異株のあるものはコロニ-が粗野であり、著しい細胞凝集能(Flo^+)と増殖の温度感受性(Tsm^-)表現型を示すことを見いだした。<BEL2>___ー遺伝子をクロ-ン化し、塩基配列を決定したところ、2022塩基対(674アミノ酸残基)からなるタンパク質コ-ド可能領域が存在した。クロ-ン化<BEL2>___ーDNAを利用して作成した<bel2>___ー遺伝子破壊株も変異株と同様、<HIS5p>___ー::<PHO5>___ー融合遺伝子よりのAPase活性が上昇し、Flo^+、Tsm^-表現型を示す事を認めた。これらのことより、<BEL2>___ー遺伝子は37℃での増殖に重要な遺伝子であることが示唆された。染色体の<ura3>___ー遺伝子座に組込んだ<PHO5>___ー遺伝子からのAPase活性も、野生型株に比べ<bel>___ー変異株では上昇する事を認め、<bel2>___ー変異の効果は、少なくともホスファタ-ゼ生産に関する限り、プロモ-タ-に依らない事を明らかにした。
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