研究概要 |
本研究の目的は、宿主・ベクタ-系を用いた遺伝子工学的物質生産に有用な高発現酵母宿主を構築するための基礎的知見を得る事である。この目的のため、酵母の酸性ホスファタ-ゼ(APase)をコ-ドするPHO5遺伝子の構造部に、酵母のヒスチジン合成系遺伝子HIS5のプロモ-タ-部(HIS5p)を連結してHIS5pーPHO5融合遺伝子を構築した。この融合遺伝子を染色体に組み込み、これよりAPase生産量の上昇した多数の変異株(bel変異と命名)を分離した。平成2年度までに、i)bel変異株は劣性核性の単一変異からなる4つの相補群(bel1,bel2,bel3,bel4)を構成する、ii)bel変異株は多面 表現型を示す、iii)bel変異の効果は転写段階である、iv)bel2,bel3変異はPHO5遺伝子よりのAPaseの生産量も上昇させることを明らかにし、さらに、v)BEL2遺伝子のクロ-ン化と塩基配列も決定した。 平成3年度では、まず、i)PHO5遺伝子からのAPase生産の上昇も転写段階で起こっていること、ii)これはPHO5遺伝子の発現に必須の転写活性化因子PHO4を破壊しても影響されないことを見いだし、bel変異株では、転写活性化因子とは独立に転写の上昇が起こっていることを明らかにした。また、iii)HIS5pーPHO5融合遺伝子よりのAPaseの上昇を指標に新たなbel変異を分離し、これが二重変異(bel5 bel6変異と命名)によること、iv)bel5 bel6二重変異株においても、PHO5遺伝子の転写が上昇することを認めた。さらに、v)bel2変異の抑圧変異を分離し、これがbel2遺伝子破壊アレルも抑圧する事を明らかにした。応用的見地からは、vi)bel2遺伝子破壊株では、PHO5遺伝子よりのAPaseの生産量が正常な脱抑制レベルよりもさらに上昇することを見いだし、bel変異を応用すれば、転写活性化因子による通常の誘導以上に有用物質の生産量を上昇させ得る可能性を示した。
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