分子育種を進めるためにはゲノムの分子構造の解明が重要な問題の一つである。しかし細胞核のゲノムは葉緑体ゲノムの1000倍以上のサイスを持ち、解析が困難である。そこでイネの核ゲノムの構造を明らかにする目的で核DNAの構造をパルスフィールド電気泳動法で解析した。 イネ(日本晴)の乾燥種子の胚芽から細胞核を単離し、巨大DNAを扱うためゲル中に包埋し、高EDTA濃度下、ProteinaseKとSarkosylで処理して細胞核DNAを調製し、各種制限酵素で切断した。 パルスフィールド電気泳動による分画の結果、MbサイズのDNAが単離可能であった。また各種制限酵素処理によるDNAのサイズ分布は、6-250kbであり、8塩基認識のNotIでも250kb程度であった。これは哺乳動物やトマトなどの他の植物と異なり、平均サイズが小さい。メチル化の度合いが少ないことが原因と見られる。 また吸水胚芽と緑葉から同様に巨大DNAを調製した。これを用い3者を比較したところ吸水させた種子の胚芽から単離した核のDNAはよりメチル化の度合いが少ないことを示しており、メチル化が遺伝子発現の制御に関係していることを示唆した。またJaponicaとIndicaの緑葉から単離した巨大DNAを認識部位が少ない制限酵素で処理し電気泳動すると、染色パターンに違いがみられた。これは近縁種でもゲノムの構造が数100kbの単位で異なることを示している興味深い結果である。 リボソームRNA遺伝子をプローブとしてサザンハイブリダイゼーションを行なった。実験の結果、遺伝子を切断しない制限酵素では1.1Mb以上の領域にバンドが現われた。これはリボソームRNA遺伝子が130以上物理的に並んでいることを示している。 さらにこの方法で、コピー数が少ない遺伝子を検出できるかを調べたところ、αアミラーゼ遺伝子の検出にも成功した。
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