研究概要 |
1.ソバの起原 1990年に中国運南省永勝県で発見したソバの野生祖先種は脱粒性、休眠性、分枝性の野生形質を持っている他は栽培ソバと区別つけ難いほど類似していた。これら野生形質はいずれも優性の形質であった。ソバ栽培集団が保有しているアロザイム変異の中には、栽培化以後に生じた変異もあるが大部分は野生祖先種から受ついだ変異である。野生祖先種の分布は1991年秋の現地調査により、永勝県、麗江県及び寧〓県の狭い地域に限られることが分った。どの民族が栽培化したのかという問については四川省雲南省に広く分布する彝族が最も可能性が高い。 2.ダッタンソバの起原 野生ダッタンソバが中国四川省、チベット、カシミ-ル、パキスタン北部にかけて広く分布している。四川省のものはチベット以西のものと形態的にもアイソザイム変異でも異なる。アイソザイム変異からみるとチベットの野生ダッタンソバが栽培ダッタンソバと全く同じであるが、近縁な野生ソバの分布とダッタンソバの伝播過程を考慮すると次のように考えられる。四川省眠江上流域で自家和合性の未記載種(1990年発見)UAから生じた野生ダッタンソバは分布を西へ伸ばしていく途中栽培化され、野生種はそのままチベットからカシミ-ル、北部パキスタンへ分布を広げていったが栽培化されたダッタンソバは四川省雲南省に広まり、ついでヒマラヤ山脈南側を西に伝播していった。 3.ソバ属Fagopyrum属の各種の分布と類縁関係 ソバには約10種の野生種があるが、このうちF.gracilipes,F.cymosum及び野生ダッタンソバは広い分布域を持つが、他は全て雲南省四川省の極めて狭い地域にのみ分布している。2倍体(2n=16)で異花柱性の他家受粉を原則とするが、四川省の眠江上流域では自家和合の種を生じ、これがダッタンソバにつながり、一方F.gracilipesやF.cymosumでは倍数化が生じ、その結果分布を広めた。
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