塩分ストレス下における生理状態の変化と耐塩性の関係について、本年度は、光合成産物の分配の変化と低濃度NaCl前処理による高NaCl濃度条件への順応に関する解析を行うとともに、根部の呼吸速度とNa_+吸収の関係、根におけるNa_+排除部位の特定、およびそのメカニズムの解明を進めた。 その結果、塩分条件下における光合成および構成呼吸、維持呼吸と測定からは、耐塩性品種Kala-Rata1-24では、感受性品種IR28とは異なって、地上部構成呼吸系数の低下が著しく、葉面積の拡大が抑制されるもののの葉身への光合成物の分配は高く維持され、器官造成に使われない光合成産物が葉身に分配され、浸透調節に寄与していることが窺えた。葉身におけるこの非構造性炭水化物の増加は、低濃度NaCl前処理よる順応の解析でも認められ、塩分ストレス条件への生理的順応の一局面と考えられた。 また、根部呼吸速度とNa_+吸収の関係については、通気酸素濃度を変えた場合の地下部呼吸速度と地上部Na含有率の間に、また通気酸素濃度と蒸散流Na_+濃度係数の間に明確な関係が認められないこと、蒸散流Na_+濃度係数は蒸散速度が高いほど低下することが明確になった。他方、根部のX線マイクロアナリシスからは、Na_+排除の障壁部位が内皮部分にあり、加圧式の根液採取装置を作成して採取した、1本の根の中心柱部分からの出液中のNa_+濃度が、加圧によって外液濃度の約15%にまで低下したこと等から、この排除機能は蒸散を駆動力とした逆浸透を原理としたものと考えられた。そして、塩分ストレス下の耐塩性構築に向けての体内生理状態は、この機能が如何に効率よく発揮されるかに係わって理解できるものと考えられた。本年度は、最終年度に当り、このような観点から、報告書を取りまとめた。
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