アクアライシンIは、成熟酵素部分のN末端側にシグナル配列とプロ配列を、C末端側にもプロ配列を持つ前駆体として合成される。大腸菌でこの遺伝子を発現させると、酵素は菌体外に分泌せず、前駆体が膜画分(外膜)に結合して蓄積する。この前駆体は自分のプロテ-ゼ活性により、65℃で成熟酵素にプロセシングされる。アクアライシンIの酵素蛋白質の折りたたみと菌体外分泌において果たす、両プロ配列の役割を明らかにした。 1.C末端プロ配列(105アミノ酸残基)を全て欠失した前駆体を発現させた場合、プロテア-ゼ活性は野生型同様、熱処理後に検出された。この結果から、活性あるアクアライシンIの生産には、C末端プロ配列は必須でないことが分かった。 2.アクアライシンIのN末端プロ配列は、前駆体の安定な構造の形成と活性ある酵素の生成に必須であることを前年度において明かにした。そこで、非共有結合的に合成されたN末端プロ領域が機能するかどうか検討した。その結果、C末端プロ配列を持つ酵素前駆体が一緒に合成された場合には、プロテア-ゼ活性は殆ど検出されなかったが、酵素領域のみの場合には活性が検出された。この発現系で、N末端プロ領域は、分子チャペロンとして機能し、C末端プロ配列は活性ある酵素の生成にむしろ阻害的であることが分かった。 3.高度好熱菌Thermus thermophilusの宿主ーベクタ-系を用いたアクアライシンI遺伝子の発現系を確立し、アクアライシンIの菌体外分泌に成功した。この発現系で、C末端プロ配列にC末端側から10アミノ酸残基以上の欠失がある場合には、酵素の菌体外への分泌は認められなかった。この結果は、C末端プロ領域が酵素の分泌に必須な役割を果たしていることを示している。
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