免疫寛容現像は免疫系の自己と非自己の認識を考える上で非常に重要な問題である。自己に対する寛容状態の破綻は各種の自己免疫疾患と関わりがあり、また非自己に対する免疫不全も人体に多大なる悪影響をもたらす。このような免疫寛容状態を抑制することは大きな課題であるが、この寛容現象の分子レベルでの解明はあまり進んではいなかった。このような寛容状態の維持にCD8+抑制T細胞が関与しているが古くから考えられてきたが、その実体は未だに解明されていない。そこで我々はCD8+抑制T細胞の働きを詳細に解析するために継代化抑制T細胞のクロ-ン化を行い、試験管内における抗体産生応答あるいはT細胞増殖応答を抑制する13G2細胞を得た。さらにこの細胞の培養上清中に同様の免疫抑制活性があることが見いだされた。このためT細胞クロ-ンを抗原提示細胞と共に抗原で刺激し、この際の増殖応答を抑制するかどうかを指標にして、上清中に含まれる免疫抑制因子(ISF)の単離を種々のクロマトグラフィ-を用いて試みた。その結果この活性物質はヘルパーT細胞が産生する抑制性のリンホカインであるILー10と同一であることが明かとなった。このILー10は抗原提示細胞の働きを阻害することにより遅延型過敏症を誘導するヘルパ-T細胞の増殖応答を抑制することが示されており、臓器移植や自己免疫疾患の治療の際に免疫抑制物質として臨床的に応用されることが期待されている。今後、抑制T細胞やILー10の生体内における役割について解析を進めていく予定である。
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