研究概要 |
従来,暖候地・寒冷地における融雪・流出機構の研究は別個に発展してきたために,統一的な枠組み設定と実証的な裏付けデ-タが欠けていた。近年,ネパ-ルヒマラヤやチベット高原,東ヨ-ロッパ,シベリヤなど海外での特徴的な水循環を調査する機会が増えつつあるが,それぞれに共通する重要な事項は融雪過程の理解と定量化である。さらに,融雪過程に対する森林被覆の影響の評価が欠かせないが,これについては日本における観測の積み重ねによる実証的な調査が著しく欠けていた。当研究者らは,本科学研究費補助金を得て,暖候地の代表として京都府の芦生演習林内の無林地と常緑針葉樹林(スギ),寒冷地としての岩手県,岩手山無林地と落葉広葉樹林の比較,さらに,北海道の雨龍演習林母子里の無林地,常緑針葉樹林(トドマツ),落葉広葉樹林において集中的な熱収支観測を実施した。その結果,無林地に比較して,日射量については落葉広葉樹林で60%に,天然性のトドマツ常緑針葉樹林で40%,人工作スギから成る常緑針葉樹林では20%に低下することが判明した。しかし,純放射量については,林内におけるアルベド低下と樹冠からの長波放射量が加わることによって,落葉樹林では60〜70%に,トドマツ常緑針葉樹林で50〜60%に,スギから成る常緑針葉樹林では30%といずれも日射量に対する比率よりも増加してくる。林内風速の低下は,落葉広葉樹林で80%に,スギ林では60%に低下したが,トドマツ常緑針葉樹林では,計測地点の問題があって無林地と大差なかった。湿度・気温は林内外で大差なかったが,夜間に常緑林では保温効果が見られる。バルク係数は林外に比して,若干大きくなる傾向が認められる。結果としての融雪量は林外,落葉樹林,常緑樹林の順に少なくなるが,夜間における樹冠からの長波放射によって,林内の夜間融雪量が無視しえない場合も生じている。
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