研究概要 |
これまで暖候地,寒冷地における融雪過程とその流出過程の研究は別個に発展してきたために,統一的な枠組み設定と実証的な裏付けデータが欠けていた.近年,ネパールヒマラヤやチベット高原,東ヨーロッパ,シベリヤなど海外での特徴的な水循環を調査する機会が増えつつあるが,それぞれに共通する重要な事項は融雪過程の理解と定量化である.さらに融雪過程に関しては森林被覆の影響評価が必要とされるが,日本では観測の積み重ねによる実証的な調査が著しく欠けていた.当研究者らは,本科学研究費補助金を得て,暖候地の代表として京都府の芦生演習林内の無林地と常緑針葉樹林(スギ),寒冷地としての岩手県,岩手山無林地と落葉広葉樹林,さらに北海道の雨龍演習林母子里の無林地,常緑針葉樹林(トドマツ),落葉広葉樹林において集中的な熱収支観測を実施した.その結果すべての地点の表層融雪量は熱収支から良好に推定できることが判明した.従って植栽されたスギや天然性のトドマツなどの常緑針葉樹林内や,落葉広葉樹林内における融雪量の相違は熱収支を構成する日射量,アルビード,下向き長波放射量,表面温度,風速,気温,湿度各項の違いとして説明できる.そのために,すべての林内の気象要素は無林地の値に対して比較検討された.これらの知見から流域を構成している,傾斜や方位,植生を異にする各部分斜面上の融雪量を求めることが可能となった.融雪最盛期には表層融雪量がその下の積雪層をすみやかに浸透し,地熱の影響を無視できるとすれば,融雪水の地面への供給は降雨と同じ事象とみなして良い.融雪期に気象要素から1時間間隔で推定された部分斜面の融雪量を筆者らの提案した流出モデルである,HYCYMODELを通して計算された流出ハイドログラフは暖候性地域を代表する芦生演習林の小流域と,寒冷地である岩手山流域で観測された流出ハイドログラフをきわめて良好に再現することが判明した.
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