1.ナイルテラピア<Oreochromis>___ー <niloticus>___ーの成熟精巣から得た精子原形質膜を超音波処理と庶糖濃度勾配遠心により分離した。得られたバンドのうち2本がミトコンドリア酵素の活性を持たない小胞状の膜成分より成ることを電顕観察により確認し、ELISA法により、それらが抗テラピア精子抗体にきわめて高い結合をみせることを確かめた。薄層クロマトグラフィ-によると、この精子膜には3種類のガングリオシドと3種類の中性糖脂質が存在したがSGG型のスルファチドはなかった。また精子膜タンパクの二次元電気泳動により60種類以上のペプチドを同定でき、うち9種類の主要ペプチドはサクラマスの精子膜成分と共通するとみられた。 2.抗体吸収検定によると、抗テラピア精子抗体に対する抗原は精子に高度に特異的にであった。分離精子膜の免疫吸着により少なくとも15種類の膜タンパクが表面抗原として認識され、うち6種類が自己抗原であることが実証された。免疫組織化学的には、この精子特異抗原の出現段階は血液精巣関門の形成段階と一致していた。 3.成熟魚の精巣の部分摘除によって自己の生殖細胞を体腔内に滲出させ、液性および細胞性の自己免疫反応を誘導できた。この際に完全フロインドアジュバントを併用すると、血清の精子凝集力値には変化がなかったが組織病理学的変化は増強された。しかしながら、この反応は輸精小管および輸精管に限定されていた。 4.抗精子抗体の大量生産のための予備試験として、ウシ血清アルブミンに対する抗体の特性を調べ、テラピアの抗体が抗原に強い結合親和性を示し、その抗体がIgMとしての特性のみを持つことを確かめた。 5.抗精子抗体で被覆したテラピア精子による受精試験は、人工受精法の検討をほぼ終えて、繁殖盛期におけっる試験の実施に向けて準備中である。
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