淡水魚のコイやキンギョなどでは、温度馴化に伴って筋原線維の性状が変化することが、部分的ながら既に明らかにされている。周知のように魚類筋肉タンパク質中、筋原線維タンパク質は60%以上を占め、その性状は魚肉の加工適性や貯蔵性に大きな影響を与える。本研究はこのような背景の下、温度馴化に伴うコイやキンギョの筋原線維の変化を分子レベルから明らかにし、魚類筋肉の有効利用に資することを目的とした。 1.キンギョ(体重4ー7g)につき、16℃から30℃に移して飼育を続けたところ、筋原線維Mg^<2+>ーATPase活性は経時的に減少して、3ー4週間後には最低値に達した。その後飼育水温を10℃に変えたところ、同活性は増大し始め、約4週間後に最高値に達した。したがって、筋原線維Mg^<2+>ーATPase活性の変化は可逆的で、完全に温度馴化するためには約4週間を要することが明らかとなった。 2.コイにつき、ミオシンのATPase活性およびアクチンとの相互作用に必須な頭部サブフフグメントー1(S1)を調製したところ、アクチン活性化Mg^<2+>-ATPase活性の最大反応初速度(Vmax)は10および30℃馴化S1で、それぞれ7.6およ5.3s^<-1>であった。なおFーアクチンに対する親和性(Km)は、両S1間で有意な差はなかった。また、30℃におけるCa^<2+>ーATPaseの変性速度恒数(K_D)は、10℃馴化S1で32.1×10^<-4>s^<-1>、30℃馴化S1で13.2×10^<-4>s^<-1>と測定された。 3.コイ・ミオシンの尾部ロッドをαーキモトリプシン消化してSDSーPAGE分析に付したところ、Lーメロミオシンに相当するバンドが10℃馴化魚では1本認められた。他方、30℃馴化魚では相当する分子量領域に3本のバンドが認められ、そのうちの1成分は10℃馴化魚のものと一致した。なお、各LーメロミオシンのN末端アミノ酸配列では、違いがみられなかった。
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