コイやキンギョなどの淡水魚は、温度馴化に伴って筋原線維の性状を変化させるが、筋原線維タンパク質は筋肉タンパク質の60%以上を占め、その性状は魚肉の加工適性や貯蔵性に大きな影響を与える。そこで本研究は温度馴化したコイやキンギョの筋原線維の変化機構を明らかにし、魚類筋肉の有効利用に資することを目的とした。 1.コイを10および30℃で1カ月以上飼育して、背側普通筋から筋原線維を調製したところ、Mg^<2+>ーATPase活性は同一温度で比べると、10℃馴化魚で有意に高かった。またCa^<2+>ーATPase活性を指標とした熱安定性では、30℃馴化魚で数倍高かった。キンギョの筋原線維でも、上記のコイのものとよく似た結果が得られた。 2.コイからミオシンおよびその頭部サブフラグメントー1(S1)を調製して、アクチン活性化Mg^<2+>ーATPase活性を調べた結果、10℃馴化魚の最大反応初速度(Vmax)は30℃馴化魚のそれより有意に高かった。また、30℃馴化魚のミオシンおよびS1は、筋原線維の場合と同様に、熱安定性に優れていた。 3.コイ・ミオシンの尾部ロッドをαーキモトリプシン消化してSDSーPAGE分析に付したところ、Lーメロミオシンに相当するバンドが10℃馴化魚では1本認められた。他方、30℃馴化魚では相当する分子量領域に3本のバンドが認められ、そのうち1成分は10℃馴化魚のものと一致した。 4.コイのミオシン重鎖、S1重鎖、およびロッドのペプチドマップを比較したところ、10℃および30℃馴化魚間で明白な差が観察された。 5.以上、コイおよびキンギョは温度馴化に伴って、ミオシンの1次構造を変化させることが示唆された。
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