研究概要 |
近年ホタテガイの流通量が増加しており,生食用の需要も大きいため,鮮度保持の関心も高い。しかし貝類の死後変化に関しての知見が少なく不明な点も多い。そこで,本年度は貯蔵温度がホタテガイ閉殼筋の死後変化に与える影響を調べた。活貝より閉殼筋(貝柱)を分離し,5℃,0℃,-3℃に貯蔵した。ATP関連化合物,遊離アミノ酸,アルギニンリン酸,オクトピンおよびポリアミンはHPLCで,DーおよびLー乳酸は酵素法で定量した。その結果,ATPは貯蔵開始時に5〜9μmol/gと個体差はみられたが,いづれにおいてもATP関連化合物総量の約60%を占め,K値は約1%であった。ATPの減少速度は-3℃貯蔵で一番大きく,0℃貯蔵がそれに続き,5℃貯蔵では緩慢であった。ATPの減少に対応して速やかにイノシン,ヒポキンサチンが生成し,従ってK値の上昇は-3℃,0℃,5℃の順の大であった。貯蔵の過程でIMPとアデノシンがともに生成し,AMPの分解はIMPおよびアデノシンを経由する2経路が存在するものと考えられた。乳酸は貯蔵開始時に約40μg/g存在し,そのうちDー乳酸が80〜90%を占めていた。貯蔵温度が高いほど乳酸の増加量は大きく,またDー乳酸の占める割合が高かった。遊離アミノ酸として主要なものはグリシン,タウリン,アルギニン,アラニン,グルタミン酸であり,アルギニンは貯蔵中に著しく減少し,オルニチン,アグマチン,オクトピンに変化した。アルギニンリン酸の減少およびオクトピンの増加がATPの減少に並行してみられた。これらのことからオクトピンとDー乳酸がホタテガイ閉殼筋の解糖系主要最終産物と考えられた。ポリアミン類では5℃貯蔵では主にプトレシン,カダベリン,アグマチンが徐々に増加し,0℃貯蔵でも少量生成がみられたが,-3℃貯蔵では検出されなかった。オクトピン,Dー乳酸,オルニチンおよびプトレシンはホタテガイの鮮度判定指標として有用と思われる。
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