本研究は、農畜産物における品質の規定要素と測定尺度を事例に即して検討し、品質格差と価格形成の関係について基礎的考察を行うことを目的としたものである。 1.農畜産物における品質は、内在的要素(食味、鮮度、安全性など)と外在的要素(ブランド、産地、等級など)に分けることができる。このうち前者の内在的品質は、本来の品質といえるものだが、その明確で客観的な尺度は、今回、調査した米穀、青果物、食肉、いずれにおいてもまだ確立しているとはいえない。しかし、米穀における食味計、果物における糖度計、牛肉における脂肪交雑(マーブリング)判定、さらには有機農産物に対する表示基準の作成・公示など、品質を科学的に尺度しようとする試みは存在し、近い将来、より買い手に分かりやすい形で品質表示ができるものと思慮される。他方、後者の外在的品質は、現在、市場流通する農畜産物の品質基準として一般化しているものだが、これが過度な競争手段となっているという反省から、品目によっては等級区分の簡素化が進められつつある。しかし、ブランド等をめぐる競争は、その調整機関が存在しないという現実のなかで激化しており、それが消費者の品質に対する判断を誤らせる原因の一つになっている。 2.市場流通している農畜産物に価格形成における品質基準は、米穀では等級、産地品種、特別表示(有機米など)、青果物では規格(等階級)、特別表示(有機野菜など)、食肉では畜種・性別、規格(歩留り・肉質)であるが、それらの基準におけるランクと実際の価格形成のあいだには、一応の比例関係は存在している。しかし、品質ランクにおける格差とそれに応じた価格格差とのあいだには、合理的で明確な照応関係は存在していない。そのことが、生産者の手取りや消費者の便益の不利に作用していることを実態調査を通じて検証できた。
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