研究概要 |
前年度に引き続き,実験を遂行した。その結果を要約すると次の通りである。 植物に対して蒸散を引き起こす,いわゆる蒸散要求度を定量的に評価する式を提案し,実験による測定で得られた短波放射,気温,湿度,風速の値から,蒸散要求度を計算した。このようにして得られた蒸散要求度と,植物個体の水収支,気孔反応,葉の生長との動的関係を調べるため,キュウリ植物を対象にして,光照射による実験を行った。その結果,1)光照射を強めた場合,蒸散速度の増加に根の吸水速度が追従できず,水収支の遅れによる不均衡によって,損失含水率,気孔コンダクタンス,葉の生長速度,及び葉温に振動が生じた。2)光照射直後は損失水量が顕著に増加したにもかかわらず,気孔コンダタタンス,葉の生長速度は急上昇したが,これには膨圧の増大及び伸展係数の増大が関与しているものと判断した。3)葉の生長速度が振動したにもかかわらず,展開初期の葉の温度はほとんど振動しなかったことから,このような葉では気孔の振動機能が未発達であることが認められた。 つぎに,風速や湿度を変えて,低い蒸散速度の環境条件下で実験を行った結果,植物反応要素にそれほど振動は見られず,光照射によって気孔コンダクタンスと葉の生長速度は直ちに増加しなかった。 以上の結果から,蒸散要求度の操作によって植物個体の水収支,気孔反応,葉の生長を制御できる可能性が示唆された。得られた知見を十分考慮に入れ,植物の環境反応の制御システムを構築し,植物生育の最適化を図っていくことが今後の課題である。
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