研究概要 |
1.配偶子による遺伝子導入のための基礎的検討.前年度の結果から通常の体外受精の条件下では精子を経由する外来性DNAの導入はきわめて困難と考えられたので,本年度は卵子への精子侵入における最大の障壁となっている透明帯を除去した条件下で体外受精を試み,得られた受精卵を個別に培養して胚盤胞まで発生させ,さらに偽妊娠雌マウスの子宮へ移植して胎子へ発生し得るか否かを検討した。その結果、79%の卵が正常に受精し,移植胚の21%に相当する37匹の正常な新生子が得られた。この発生率は対照区である無処理卵の値よりも低い値であったが,透明帯を全く欠く条件下でも,卵子は正常に受精し,発生する能力を有することを示した点で,遺伝子導入動物作出のための新しい可能性を示唆するものと考えられる。なお,卵丘細胞層のみを除去し透明帯で包まれた状態の卵子は受精しにくいこのが知られているが,この場合には受精用培地のカルシウム濃度を1.71mMから3.42mMに増加させることが受精率の向上に効果的であることも明らかにした。 2.胚性幹細胞を経由する遺伝子導入のための基礎的検討.前年度の研究成果により生殖細胞への分化能力を有する胚性幹細胞を新たに分離することに成功したので,その細胞株を用いて遺伝子導入のための基礎的条件の検討を行った。まず,レポ-タ-遺伝子としてSV40またはメタロチオネイン遺伝子のプロモ-タ-領域の下流に大腸菌のβーガラクトシダ-ゼ遺伝子と連結したDNAを用いてエレクトロフュ-ジョンによるDNA導入の条件を検討した後に,ネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだベクタ-の導入を試み,G418耐性の細胞株の樹立に成功した。この細胞は受容胚に注入するとキメラ胚を構成し,偽妊娠雌マウスへの移植後キメラ個体へと発生した。しかし,現在までは,そのキメラ個体から耐性細胞株由来の子孫は得られていない。
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