当該年度は2つの実験のまとめとなる。1番目の試験は、第四胃内へのカゼイン注入がめん羊の血漿中ソマトメジンC濃度および骨代謝に及ぼす影響に関する研究である。第四胃内へのカゼイン注入により、血漿中ソマトメジンC濃度およびインスリン濃度は増加する傾向にあった。また、尿中ハイドロキシプロリン排泄量はカゼイン注入によって増加した。したがって、第四胃内へのカゼイン注入は骨成長に促進的に作用するとともに骨吸収も活性化することが考えられた。一方、骨形成の指標である血漿中オステオカルシン濃度にはカゼイン注入の影響は認められなかった。この結果はソマトメジンC濃度の増加が骨形成の促進に結びつかなかったことを示唆している。本試験で用いた動物は成熟しためん羊であったことおよびカゼイン注入が13日間と短かったことが骨形成の促進に至らなかった原因であるのかもしれない。2番目の試験は、第四胃内へのアラニンおよびアスパラギン酸注入がめん羊の骨代謝および血漿中骨成長促進ホルモン濃度に及ぼす影響についての研究である。アラニン、アスパラギン酸注入とも血漿中インスリン濃度を上昇させ、血漿中グルコース濃度を減少させた。また両アミノ酸注入は血漿中ソマトメジンC濃度および骨形成の指標となるオステオカルシン濃度を減少させた。一方、尿中ハイドロキシプロリン排泄量はアラニン、アスパラギン酸注入によって増加した。本試験の結果から、アラニン、アスパラギン酸の第四胃内注入は骨形成を抑制し、骨吸収を促進することが推察された。今後はさらに十二指腸に到達するアミノ酸の種類と量を変えて検討する必要があると考えられた。なお、反芻胃の発達する以前の幼家畜に対するカゼインの部分分解産物であるカゼインフォスフォペプチド給与は骨中カルシウム含量を増加させる働きのあることが、ラットを用いた試験結果から示唆された。
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