研究概要 |
精細管のin vitro培養系の確立は、性分化の機構を調べる上でも、また精子発生の機構を解析する上でも欠くことの出来ない研究課題である。我々は、まず未分化の生殖腺を用いてin vitro培養条件において精巣索が分化する条件を決定した。ついで、未分化のマウス生殖腺が、未成熟な精細管である精巣索へと分化する際に、精細胞およびセルトリ細胞の形質膜に、フォルマン抗原やGM1ガングリオシドなどの糖脂質や、種々の糖タンパク質がステ-ジ特異的に発現することを明らかにした(Kanai et al.,Jpn.J.Zootech.Sci.,1990;Kanai et al.,Histochemistry,1990)。そこで、精巣索形成におけるこれらの複合糖質の役割を明らかにするために、Nーグリコシド型糖鎖の合成阻害剤であるツニカマイシン(TM)をマウス未分化生殖腺のin vitro培養系に添加し、精巣索分化に及ぼす効果を検討した。交尾後12日齢の未分化生殖腺を採取し、10%ウマ血清添加RPMI培地にてミリポアフィルタ-上で3日間培養した。対側の生殖腺は対照群として用い、同時に雌雄の判定を行った。試料は、グルタルアルデヒド固定後、常法にしたがってAralditeまたはLowicryl K4Mに包埋し、光顕的ならびに電顕的に観察した。またLowicryl K4M超薄切片にレクチン包埋後染色法を適用し、複合糖質の分布を電顕的に検討した。その結果、TMを添加すると精巣の実質内への間葉系細胞の侵入が有意に阻害された。また中腎細管と連続する精巣索様の配列が、間葉系側の実質内に認められた。この配列は、正常の精巣索にくらべ境界が不明瞭で、不規則な索様配列を示した。電顕レベルでは、この索様配列を構成するセルトリ細胞と精細胞に小胞体の膨化が認められた。これらの結果から、精細管形成に複合糖質が深く関与していることが明かとなった(Kanai et al.,Anat.Rec..1991 in press)。さらに現在、精細管形成におけるアクチンフィラメントの関与をin vitro培養系を用いて検討中である。
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