研究概要 |
1.ほ乳動物の生体時計機構を細胞レベルで解析するため、ラット胎児の視交叉上核(体内時計の局在部位)を酵素処理により遊離細胞とした後,単層培養を試みた。培養条件の検討において、細胞接着因子ラミニンや、ポリオルチンーラミニンが、神経線維の成長に有効である事が判明した。前者の場合,神経細胞は集合して細胞塊を形成し、これらの細胞塊は、お互いに連絡し合い、神経ネットワ-クを形成した。培養液の検討では、無血清培養液(DMEMを基礎に、Progesterone,NGF,などを添加した物)が神経細胞の長期培養に適していた。この様にして神経細胞の培養系を確立した後,視交叉上核細胞の還流実験を行なった。還流は37℃85%湿度の部屋で行い、2時間おきにサンプルを集めた。サンプル中のバゾプレッシンをラジオイムノアッセイで測定した。その結果,42例中12例において、著明なサ-カディアンリズムを認めた。周期は約27時間で、振幅は山が谷より約8倍の値を示した。またこのリズムは、還流終了の4日間を通じて維持され、ダンピングは起こらなかった。 以上より、培養細胞が時計機構を維持している事が判明し、この細胞培養が、今後、時計機構解析の有力な手段になる事が予想される。 2.生体時計は急な光条件の変化にすぐに再同調出来ず、約1〜2週間を要する事が知られている。これが言わゆる時差ボケの原因となっている。しかし時計自身の再同調速度を測定した報告はない。これを行うためには、明暗条件変化後、恒常暗下におき、どの位相から自由継続リズムが出現するかを調べれば良い。行動リズムを指標に検討した結果,予想に反して、時計自身のリズムは、急な明暗条件の変化に2〜3日間で再同調出来る事が判明した。この事は、従来の時差ボケの原因とは反するものであり、時差ボケとは、時計のリズムが、末端リズムにすぐに伝達されないために起こると考える方が妥当の様に考えられる。
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