研究概要 |
平滑筋の興奮性に対する細胞内 pH(pHi)の影響を調べるため、モルモットから摘出した胸部大静脈、下大静脈、門脈、肺動脈、あるいは家兎の門脈の筋切片を用い、それらの張力発生、pHiの変化、ならびに膜電流を測定した。pHiを高めるには塩化アンモニウム(NH_4Cl)を、低めるときにはいろんな弱酸(butyrate,acetate,propionate)を用いた。pHiの測定はpH感受性の色素(Me_2CF)の吸収スペクトルの変化を利用し、単離した細胞の膜電流の測定にはいわゆるwhole-cell clamp法を用いた。 NH_4Cl(10-20mM)を作用させると、細胞内はアルカリ(pHi:7.6-7.8)に傾き、緩やかな収縮が発生する。NH_4Clを洗い流したときには、一過性の酸性化(pHi:6.7-6.8)が、弱酸によっては農度依存性に持続性の酸性化が起こるが、この場合も酸性化に伴って収縮の発生がみられる。NH_4Cl投与中の収縮はphenoxybenzamine(PBA)で強く抑えられるので、少なくとも一部は神経から放出されるカテコルアミンによるものと考えられる。外液のK濃度を増して(30-40mM)収縮を起こした後でNH_4Clを与えると弛緩がみられる。一方、細胞内の酸性化による収縮はPBAによっても張力の増大によっても著明な影響を受けないので、平滑筋自身の反応であると推測される。外液のCaを除くと、pHiの変化に伴った収縮は殆ど消失するので、主に細胞内へ流入するCaによって発生すると推測される。しかし、この収縮はverapamilなどのCaチャネル遮断剤で抑制され難いので、いわゆる膜電位で制御されるCaチャネル以外の経路で流入するCaの関与や、細胞内貯蔵部からのCaの遊離の増強作用、あるいは、まずNa-H交換によって細胞内Na濃度が増加し、この結果Na-Ca交換(または直接的にH-Ca交換)が促進して細胞内Ca濃度([Ca]i)が増加するというようような可能性も考えられる。膜電流における主な変化は、細胞内アルカリ化によって内向きのCa電流が増大し、酸性化によって減弱することである。これらには[Ca]iの変化を介した間接的なチャネルへの影響の要素も含まれ得る。
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