研究概要 |
膵ランゲルハンス島β細胞はglucoseに反応して脱分極し,その脱分極の上にスパイクバ-ストが発生する。スパイクバ-ストの発生持続時間はglucose濃度の上昇と共に短縮する。一方,β細胞にはATPーsensitive K^+-channelとCa^<2+>-activated K^+-channelが存在することは既に知られている。そこで,スパイクバ-ストの突然の中断をもたらす再分極は細胞内のCa^<2+>-storeからのCa^<2+>放出に由来するCa^<2+>-activated K^+-channelの活性化によるものであろうと考え,蛍光色素Fura2を用いて細胞内Ca^<2+>濃度を測定した。用いた材料はマウス膵からコラゲナ-ゼを用いて得られたランゲルハンス島初代培養細胞である。細胞外glucose濃度を11.1mMにすると,細胞内Ca^<2+>濃度は急激に上昇した。glucose濃度が11.1mMに保たれている間,細胞内Ca^<2+>濃度はほぼ定常的な高いレベルに留まり,この間スパイク状の細胞内Ca^<2+>濃度の変動は認められなかった。この事は,スパイクバ-ストの中断に細胞内Ca^<2+>storeからのCa^<2+>放出は殆ど関与していないことを示している。 次に,β細胞を破碎し,そのホモジネ-トのATP濃度をルシフェリン・ルシセエラ-ゼ法で測定することによって,細胞内ATP濃度を求めた。細胞外glucose濃度を2.8mMから11.1mMにすると,ATP濃度は約2倍に増加していることを確かめた。また,非代謝性呼吸基質とされるフェニル・ピルビン酸を細胞外液に加えるとglucoseよりむしろ低い濃度で細胞内ATP濃度は高くなることを認めた。これに対して細胞外液にピルビン酸を加えても,細胞内ATP濃度には殆ど変化は認められなかった。 ^<14>CO_2発生速度を指標とするglucose代謝速度についての実験に於て,細胞外液に加えられたフェニル・ピルビン酸は[ ^<14>C]グルコ-スからの ^<14>CO_2発生速度を上昇させたが,ピルビン酸は ^<14>CO_2発生速度に殆ど影響を与えなかった。これらのことから,従来非代謝性であると考えられていたフェニル・ピルビン酸はglucose代謝の促進を介して作用すると考えられる。
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