本研究の目的は、グルタミン酸受容体が最も濃密に存在する海馬ニュ-ロンを対象として、グルタミン酸受容体の発達と興奮性シナプス伝達およびその可塑性変化とその関連を明らかにすることである。この目的を達成するために、海馬切片のニュ-ロンにパッチクランプ法を適用する実験および海馬単層培養標本を対象とする実験を計画した。今年度ま主として単層培養標本を対象とする実験を行い、次のような成果を得た。 ラット胎仔の海馬CA/野錐体細胞を分散し、CA3/4野の小組織片を混合培養し3週間以上発育させることにより、CA3/4野ニュ-ロンとCA/野錐体細胞間にグルタミン酸を伝達物質とする興奮性シナプスを形成させる方法を確立した。興奮性シナプス入力を受けるCA/野錐体細胞上のキスカル酸受容体の分布を調べると、尖端樹状突起上の特定の部位にキスカル酸受容体が高密度存在し、この部位のAMPA(キスカル酸受容体の選択的アゴニストノ感受性電流と興奮性シナプス後電流の間には閉塞現象がおこることから、シナプス部位にキスカル酸受容体が高密度に集積してくる可能性が示唆された。また本研究では当初キスカル酸受容体とカイニン酸受容体は別のものであると仮定し、両者の発達の経過およびニュ-ロン上での分布の差異を調べることを予定していた。しかし現在までの研究で、AMPAにより脱感作されたニュ-ロンからはカイニン酸応答が得られなくなること、カイニン酸受容体チャネルは整流特性と2価イオンに対する透過性の差異から少くとも2種類に分類されるが、AMPAもカイニン酸と全く同様の2種類のチャネル応答をもたらすことなどからキスカル酸受容体とカイニン酸受容体は少くとも海馬では同一のものであることが強く示唆された。海馬ニュ-ロンには2種類のカイニン酸受容体の存在することは論文にまとめすでに投稿した。
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