| 研究概要 |
新生ラットの全小脳あるいは半側小脳を切除したのち,摘出した胎児ラットの全小脳あるいは半側小脳を相同部位に移植し,移植後その部位がずれることなく生着した例において,移植された小脳と宿主の脳との間の神経結合を調べるため,逆行性トレ-サ-である蛍光色素(Fluorogold)を宿主脳の視床前腹側核ー外側腹側核群に,また逆行性・順行性トレ-サ-であるWGAーHRPを移植小脳に注入し,神経組織学的検索を行った.結果は以下の通りである.小脳核からでる小脳遠心投射は終末にいたるまでWGAーHRPによって順行性に標識され,小脳中位核と外側核のニュ-ロンがFluorogoldで,小脳前核のニュ-ロンがWGAーHRPで逆行性に標識された.順行性に標識された線維はまとまった線維束として脳幹に入り,上小脳脚交叉で完全交叉して上行脚と下行脚に分かれ,上行脚は対側の脳幹と視床の諸核に終止し,下行脚は反対側の橋被蓋網様核と下オリ-ブに終止し,とりわけ,赤核と視床前腹側ー外側腹側核群の終末は密であった.これらの線維の経路や終末の密度と分布様式は正常ラットにおけるものと区別することはできなかった.逆行性に標識されたニュ-ロンの分布を見てみると小脳核は主として対側性,一部同側性,下オリ-ブ核はすべて対側性,外側網様核はすべて同側性,橋核は大部分が対側性,一部は同側性,橋被蓋網様核は両側性であり,これらニュ-ロンの分布様式もまた正常ラットにおけるものと同様であった.以上の結果から移植された小脳にも正常な入出力のできていることが判明した.哺乳動物の中枢神経回路は再生しないと広く信じられている.しかし,本実験結果は哺乳動物の脳であっても,その中枢神経回路網をシステムとして再構築することが可能であることを示している.
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