研究概要 |
平成3年度の研究において以下の知見を得た. 1.酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)の脳内産生細胞:ラットにおけるcDNAプロ-ブを用いたin situハイブリダイゼ-ションの結果,aFGFの産生細胞は脳室壁の上衣細胞であることが判明した.2.aFGFの分泌因子:ヒドラを用いたバイオアッセイ系で調べた結果,グルコ-スのラット第3脳室内投与により,脳脊髄液中のaFGF濃度は対照期の約10pg/mlから2時間後には約10ng/mlへと1000倍増加することが明らかになった.すなわち,脳室壁上衣細胞はグルコ-スセンサ-機能をもち,グルコ-スがこのセンサ-に作用することにより脳室壁上衣細胞で産生されたaFGFが脳脊髄液中および脳実質中に遊離されるものと考えられる.3.aFGFの学習・記憶に対する作用:グルコ-スをマウスの腹腔内の投与し内因性のaFGFを脳室内で遊離させると,空間認知学習の一つであるモリス水迷路学習においてプラットフォ-ムへの逃避潜時が有意に減少することが判明した.このグルコ-スによる逃避潜時の減少は,グルコ-ス投与30分前に抗aFGF抗体を脳室内に投与しておくと消失した.すなわち,aFGFは学習・記憶促進作用をもつと考えられる.4.海馬の長期増強に対するaFGFの作用:海馬のシェファ-側枝および交連線維をテタヌス刺激するとCA1領域の錐体細胞層で記録されるポピュレ-ションスパイクの振幅に長期的な増強がおきる.予備的実験の結果,aFGFがこの増強を促進するという結果を得た.海馬の長期増強は学習・記憶の生理的基礎過程と考えられており,今後長期増強とaFGFの関係につき,さらに検討を進める予定である.
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