細胞内カルシウムイオンは、筋肉の収縮反応、腺細胞の分泌現象、細tの増殖や分化における調節因子として、その重要性が多くの研究者により示摘されている。しかしながら、これ等のカルシウム依存性細胞機能調節の分子機構については、現在なお多くの不明な点が残されている。一方、細胞内カルシウム情報伝達の中心的分子機構として、細胞内カルシウム結合蛋白質が注目されている。我々は既に、細胞内カルシウム結合蛋白質の代表的なものの一つであるカルモデュリンに作用する薬物(カルモデュリン阻害薬)を使用した薬理学的研究を行ってきた。しかし、その後の研究からカルシウム依存性細胞機能調節の分子機構は組織により異なり、各々の組織は、特徴あるカルシウム結合蛋白質群によるカルシウム調節機構を構築していることが明らかにされつつある。最近、我々は新しい細胞内カルシウム結合蛋白質を見出した。この蛋白質は、ブタ心筋においてカルシウム非存在下に可溶性画分に分布するもので、疎水性カラムにカルシウム依存性に吸着することが明らかとなった。さらに、特徴的な性質は色素アフィニティ-カラムにカルシウム依存性に吸着することであり、カルモデュリンや既知のS100蛋白質にこの様な性質は認められない。一方、1分子(2量体)当り4個のカルシウムイオンが結合することが認められた。その親和性は、塩が存在しない場合はKd=2μMであり、100mMKClが存在するとKd=55μMになり、KClにより親和性は著しく減弱することが明らかとなった。更に、この蛋白質の作用機序を解析した。その結果、この蛋白質はカルシウム存在下で細胞骨格に結合し、カルシウムイオンを除去すると解離することが示された。以上の結果より、この蛋白質は、心筋の新しいカルシウム情報伝達機構に関与していることが示唆された。
|