カルシウムイオンは細胞内情報伝達物質としてその重要性が多くの研究者により指摘されている。しかしながら、これら、カルシウムイオンにより調節されている細胞機能の分子機構については、現在なお多くの不明な点を残している。一方、細胞内カルシウムイオンはカルシウム結合蛋白質を介してその作用が内現すると考えられているが既報のカルシウム結合蛋白質のみでは十分説明出来ないことも多い。さらに、カルシウム依存性の細胞機能調節の分子機構は組織により異なり、各々の組織は特徴有るカルシウム結合蛋白質群によるカルシウム調節機構を構築していることが明らかにされつつある。最近我々は、新しい細胞内カルシウム結合蛋白質を見出し、分離精製し、そのcDNAクローニングにも成功した。この蛋白質は既知の蛋白質の中ではS100ファミーに属する蛋白質であるが、他のS100蛋白質ファミリーと分子特性や機能発現機構が異なることが明らかとなった。S100蛋白質ファミリーの生理的役割については今日まで多くの研究がなされ、細胞分化、細胞周期の制御、種々の蛋白質リン酸化反応の調節における関与などが示唆されているが、その詳細は不明である。我々の見出した新しいカルシウム結合蛋白質S100Cは、はじめ心筋から見出したものであるがノーザンブロット、ウエスタンブロットによる分析結果から肺や腎臓に大量存在することが判明した。さらにブタ腎臓近位尿細管由来LLC-PK1細胞、イヌ腎臓遠位尿細管由来MDCK細胞、ラット副腎由来PC12細胞等に多く発現していることを明らかにした。そこで、これらの細胞の細胞周期におけるS100C蛋白質の発現量の変化を抗S100C抗体を用いて検討した結果、細胞周期依存性発現において他のS100蛋白質ファミリーとは異なることが明らかになり細胞増殖においてS100Cは新しい役割を担っていることが示唆された。
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