研究概要 |
ミトコンドリア蛋白質の大部分はアミノ末端にプレシ-クエンス(延長ペプチド)を持つ分子量の大きい前駆体蛋白質の形で合成されたのち,ミトコンドリアに移行してプロセシングを受け,成熟蛋白質に転換される。この際プレシ-クエンスは前駆体がミトコンドリアを識別して結合し,ミトコンドリア内に移行させるシグナルとして働く。ミトコンドリア蛋白質の1つであるオルニチントランスカルバミラ-ゼの前駆体を大腸菌を用いて大量に発現させ均一に精製した。精製した組換え前駆体を単離ミトコンドリアに取り込ませて成熟蛋白質に転換させる試験管内での再構成実験に成功した。この際網状赤血球ライセ-トなどに含まれる蛋白質因子の添加が必要であることを見出した。このサイトソル因子はミトコンドリア蛋白質前駆体に特異的に結合することよりPBF(Presequence binding factor)と名付けた。網状赤血球ライセ-トよりオルニチントランスカルバミラ-ゼ前駆体をリガンドとするアフィニティ-クロマトグラフィ-などを用いて約10万倍に精製し,均一なPBFを得た。サブユニット分子量は約5万と推定された。精製PBFと精製オルニチントランスカルバミラ-ゼは7.1Sの可溶性の複合体を形成した。精製PBFは前駆体蛋白質の単離ミトコンドリアへの取り込みを強く促進した。最近熱ショック蛋白質hsp70が蛋白質のミトコンドリア移行に関与することが示唆されていたが,精製hsp70はPBF存在下でのみ前駆体のミトコンドリア移行を促進した。したがってPBFは前駆体蛋白質のミトコンドリア移行に必要であり,hsp70は補助的に働くものと考えられる。PBF遺伝子の単離を進めている。
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