研究概要 |
cGOTは補酵素を結合する大ドメインと、基質の結合により活性中心に向かって動く小ドメインから成る。このいわゆる"induced fit"というべき構造変化に伴い、小ドメイン内のアミノ基末端セグメント領域が活性中心の入口に蓋をすることにより、活性中心を外部環境から遮断し、本酵素反応のkey stepである基質アミノ酸のαー水素の補酵素4ー炭素への分子内プロント移動(ケト酸からの反応では逆方向のプロトン移動)を特異的かつ効率的に起こさせると想定される。このアミノ基末端セグメント領域内の残基15ー18,37ー39を変異目標とした。平成2年度に作成したPhe18をHisに置換した変異酵素は、触媒活性と基質結合能を低下するものの、アスパラギン酸アミノ基転移酵素としての性質は保持していた。Hisに置換した酵素の1HーNMRによる観察で新たに導入したHis残基に由来するピ-クを同定し、そのpK値はpH適定の結果5.15と求められた。低磁場に位置するHis18のピ-クが、基質類似体の添加により高磁場側にシフトし幅広化する事実から、置換により18位に導入した分光学的レポ-タ-グル-プが、アミノ酸末端セグメントの基質結合に伴う構造変化を観察するための有効手段となると考えられた。 Gly38変異酵素の解析結果、Val37ーGly38部分の基質結合能への関与が想定されたので、C37A,G38S変異酵素を作成し更に詳細な動力学的解析を行なったところ、触媒機能の著明な低下が観察された。活性中心への基質の吸い込みと、反応修了後の生成物の放出のための装置と想定されるArg292ーGlu141イオン・ペアを変異目標としたアミノ酸置換を行なった結果、この2残基によって占められる活性域内空間容量が、基質の選択性に大きく影響することを示唆した。引続き、重複置換変異酵素の基質特異性と触媒能について動力学検討を行なっている。
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