免疫担当細胞の情報伝達におけるプロテインホスファタ-ゼの役割を明らかにする目的で、まず免疫担当臓器の粗抽出液での本酵素の3分子種PP1、PP2、PP2Cの活性の分別定量法を確立した。次いでこれを用いて、細胞内情報伝達系に障害を有するとされる自己免疫疾患モデルマウスlprマウスの活性を測定して病態変異を解析した。3分子種の各々の全活性(活性型+不活性型)はともにlprマウスのリンパ節で最大値を示し、さらにlprマウスの脾臓と肝臓で対照マウスに比べ明らかな上昇を示した。これらの結果は、lprマウスリンパ節のほとんどを占める異常T細胞の脾臓と肝臓での異常蓄積によるものと結論される。またlprリンパ節のPP1活性は、コバルトートリプシン処理後の全活性が最高値を示したが、同処理前のPP1活性はむしろ低く、対照マウスの脾臓と胸腺よりやや低値を示した。従ってlprリンパ節ではPP1のほとんどが不活性型で存在することが明らかとなった。次に免疫担当臓器より免疫担当細胞T、B、Mφを分離し、細胞レベルでの本酵素の病態変異を解析した。その結果、T、B、Moのいずれの細胞においても、PP1の不活性型に存在する割合がlprマウスで増大していることが明らかとなった。PP1の活性型/不活性型比が、LPSなど種々の免疫刺激で変動することがわかったのでlprマウスにおけるその病態変異は、本疾患における免疫担当細胞の情報伝達の異状と何らかの関連があるものと考えられる。現在、この点について種々の免疫応答系を用いて検討している。一方、免疫応答における本酵素の役割を遺伝子発現の側面から解析するため、PP1のcDNAの分子クロ-ニングを行い、その全塩基配列を決定した。次いでこれをプロ-グとして用いてノザンブロット解析を行い、本酵素遺伝子が細胞増殖や細胞周期などによって変動することを明らかにした。その病態変異について検討中である。
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