細胞の増殖分化は誘導因子のみならず、抑制因子によっても制御されている。我々は、過剰のIL-3刺激に反応して正常骨髄細胞から産生される、IL-3活性抑制因子(NIL-3)を発見した。これは、真のNegative Feedback機構として働く因子と思われる。 イオン交換カラム等を用いて、NIL-3をIL-3から完全に分離した。NIL-3は分子量約3万と推測されるが、インターフェロンγ(IFNγ)と、その物理化学的性状が類似している。しかし、IFNγにはNIL-3活性は無く、抗IFNγ抗体によるNIL-3活性の中和も見られなかった。また、分子量、熱耐性等の比較から、NIL-3はTGFβ、TNFなど、既知の抑制因子とは異なる新しい因子であることが明かとなった。 造血幹細胞を濃縮した分画をIL-3で刺激すると、このNIL-3の産生が誘導される。5-FU処理により得たGo期の幹細胞、およびリンパ球分画はNIL-3を産生しないことから、NIL-3の産生細胞は増殖期に入った幹細胞と推測される。造血幹細胞欠損W/W^vマウスの骨髄細胞をIL-3存在下で培養したが、この培養上清中にはNIL-3活性は検出されなかった。正常対照である+/+マウスの骨髄細胞もNIL-3を産生しなかった。さらに、親系統であるC57BLマウスについても調べた結果、C3H、A/J、ddY等の他の系統のマウスと異なり、C57BLマウスはNIL-3を産生しない特殊なマウスであることが分かった。これは同時に、NIL-3が、いずれもC57BLマウスの産生する、池原らのナチュラル・サプレッサー因子や、アクセルラードの報告した抑制因子とは異なることを示す。 なお、NIL-3はマスト細胞前駆細胞の増殖分化を抑制するが、同時に成熟マスト細胞からのヒスタミン放出をも抑制することを見い出した。喘息などのアレルギー疾患の予防等へのNIL-3の応用が考えられる。
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