細胞内寄生菌の感染宿主にみられる強い細胞性免疫の誘導は、何故生菌でしか誘導されないのか、菌種を越えてどのような普遍的なメカニズムが働いているかを明らかにし、さらに細胞内寄生菌感染の防御や治療への応用的基盤を確立することを目的として本研究を行い、以下のことを明らかにすることができた。(1)リステリアやBCGの死菌で特異的T細胞の誘導が困難であるのは、単なる抗原量や抗原の持続の違いに依存するものではない。(2)生菌免疫で誘導されたT細胞を活性化する抗原性は、菌の生死、病原性に拘わらず存在し、またHSP65、HSP70などストレス蛋白の発現にも規定されない。(3)数多くのリステリアの菌株のなかに、生菌であっても死菌同様免疫誘導能の低い株が見出され、免疫誘導能と最も相関した相違は、マクロファージからのIL-1産生誘導能であることが、蛋白レベルでもmRNAレベルでも確認された。BCGの生菌死菌でも同様であった。(4)死菌によりマウスを免疫する際にIL-1を投与すると、抗原特異的T細胞の機能分化を促進することができた。(5)リステリア各菌株でのIL-1産生誘導能は、各々のヘモリシン産生能と高い相関を示したので、58kDのヘモリシンを精製しマクロファージに作用させた結果、この蛋白に高いIL-1産生誘導活性が見出された。(6)リステリアやBCGで誘導される抗原特異的T細胞の主体は、Thl型のCD4+細胞であったが、防御免疫の発現には抗原特異的なIFN-γの産生が不可欠であった。死菌免疫ではIFN-γ以外のサイトカインを産生するCD4+T細胞しか誘導されなかった。IFN-γ産生とIL-2に代表されるその他のサイトカイン産生においてT細胞が識別する抗原には違いがみられた。 以上の結果より、免疫の誘導成立にはIL-1を主体とするモノカイン産生が必須で、防御発現にはIFN-γ産生性T細胞の誘導が、各種細胞内寄生菌に普遍的に必須な因子であると考えられた。
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