研究概要 |
我々は先に,1983年以前に本邦で分離された22株のC型インフルエンザウイルスの性状を調べ,多数の抗原変異株が共存しているものの,その中に特に拡がり易い変異株が存在する可能性を示唆した。本年度は,この考えの妥当性を検討するため,(985年から1989年にかけて本邦各地の衛生研究所で分離された8株のC型ウイルスの抗原性と遺伝子構造を比較検討すると共に,1988年6月から1990年5月にかけて山形市内の小児から我々の手によって分離された20株のC型ウイルスの解析を開始した。以下にその成果を要約する。 1.1985年に奈良県で分離された2株のうち,奈良/1/85は1982〜83年に近畿地方で相次いで分離されたミシシッピ-/1/80系統株に酷似していた。一方奈良/2/85株はこれまでの本邦分離株のいずれも異なるウイルスであった。ところが1986年以降に奈良,山形,広島の3県で分離された6株は,いずれも1981年に愛知県で分離された愛知/1/81株に似たウイルスであった。従って1986〜89年では愛知/1/81系統株が他の株より拡がり易かったものと推測される。 2.1988年6月から1990年5月までに分離された20株のC型ウイルスの抗原性を比較したところ,7株が愛知/1/81系統株と同定され,この系統が本邦に蔓延しているとの上記の観察が再確認された。ところが残りの13株のうち8株は1981年に山形県内の乳児院で分離された株と同じ抗原性を持つことが明らかになり,山形/81系統株も山形市に広く蔓延していると判断された。さらに興味深いことに,1988年12月12日から14日までの3日間に3株が分離されたが,2株は愛知/1/81並びに山形/81系統株であり,残りの1つは従来の分離株のいずれとも異なるウイルスであった。比較的限られた地域に複数の抗原変異株が共存するという我我の仮説の直接的証拠が得られたものと思われる。
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