アデノ・アソシエイテドウイルス(AAV)は自己増殖能を欠損しており、ヒトに病原性がなく、多くのヒトがAAVに対する抗体を持っている。しかも、宿主域が広く、染色体に組み込まれる頻度が高いなどのウイルスベクタ-として好都合な利点を数多く持っている。AAVをベクタ-として開発するために、(1)AAV遺伝子の改変、(2)改変AAV粒子を作製するためのヘルパ-ウイルスの構築、(3)AAV遺伝子に挿入した外来遺伝子発現の制御システムについて研究した。(1)に関しては、AAVの全遺伝子を組み込んだプラスミドを用いて、AAV外殻タンパク質をコ-ドした領域に外来遺伝子を挿入したいくつかの組換え体を作製した。SV40癌遺伝子をAAVP40プロモ-タ-の下流に挿入した組換DNAを作製し、それによりヒト胸腺支持細胞を不死化し、改変AAVを含む組換えDNAがベクタ-として機能することを示した。(2)に関しては、ヘルパ-ウイルスであるアデノウイルスのE1領域にAAV外殻タンパク質のコ-ド領域とその発現を制御するシグナルを含んだDNA断片を挿入した組換えアデノウイルスを作製した。次に、その組換えヘルパ-ウイルスと改変AAV遺伝子DNAとを293細胞に混合感染し、改変AAV粒子の産生を検討した。産生量は期待したよりも少なく、この原因はヘルパ-ウイルスからのAAV外殻タンパク質の発現量の少なさによることがわかった。(3)に関しては、アフィニティ-・レイテックス粒子を開発し、DNA結合性転写調節因子を細胞粗抽出液から直接に精製するシステムを確立した。この粒子を用いて、ATF/E4TF3などの転写因子ファミリ-の個々のメンバ-やE4TF1などの複合体を形成する転写因子の個々のサブユニットの機能解析が可能となり、新規転写因子を同定することが出来た。本研究はAAVウイルスベクタ-開発の基礎を築き、今後の研究の発展に貢献するものと思われる。
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